イギリスの国鉄民営化はなぜ失敗したのか(個人的まとめ)

 1990年代に分割民営化されたイギリス旧国鉄を、ふたたび国有企業1社(その名もGreat British Railways)の運営に戻す法制化(言ってしまえば再国有化)が現在進められています(最近雲行きが怪しいという報道もありますが)。
 これを機に、イギリスではなぜ旧国鉄の民営化がうまくいかなかったのかを、個人的に収集した情報をもとにまとめてみたいと思います。
 とはいえ、先にお断りしておきますが、あくまで趣味の記録です。私は日本在住のため日常の利用者ですらなく、英語も不得手です。

イギリス知的財産庁サイトで公開されたGBRの登録商標。NetworkRailによる出願だが、実際に使われるかどうかはわからない

はじめに:意外な支持を集めた再国有化論

 日本で、「JRを再び国有化すべし」という意見はほとんど聞かれず、あったとしても世間で多くの賛同を得ることは難しいと思います。しかしイギリスでは、そうではありませんでした。

 2017年の総選挙で、野党・労働党が鉄道再国有化を公約に掲げたとき、メディアは「時代錯誤」と酷評しましたが、世論調査では賛成が52%で、反対は22%しかいませんでした(その後賛否の差はさらに広がっています)。それだけ、民営化後の鉄道に不満を持つ人が多かったのでしょう。労働党はその選挙で政権獲得できなかったものの議席を伸ばし、鉄道の再国有化論が一躍注目されるようになりました。

 与党・保守党も、続く2019年の総選挙で、労働党に対抗するため、「現在の複雑な制度は終わらせる」と公約しました。その段階では国有化は否定していましたが、コロナ禍で鉄道の乗客数が激減して、現制度下の各社の経営が行き詰まったこともあり、検討の結果出てきたのは国有企業1社が運営するかたちの新制度でした。

「上下分離」の「下」が数年で破綻

 イギリスの国鉄は1990年代に分割民営化されました。日本のそれとは、やり方がだいぶ異なるものでした。特に違うのは、インフラ部分と運行部分を別の会社が担う「上下分離」だったことと、分割の単位がとても細かかったことです。

 「上下」の「上」の部分が運行会社(TOC = Train Operating Company)。乗客から見える部分のほとんど、すなわち、時刻表の作成、列車の運行、切符の販売や駅の営業業務を担います。旅客部門は、地域や路線ごとに全国が25に分けられました。民営化のタイミングで一度に25もの旅客鉄道会社が誕生したのです。こちらについては詳しいことは後述します。

1996年に制作されたRailtrack社の宣伝映像(YouTube)

 「下」の部分、つまり線路などのインフラの管理と保守については、Railtrack社という新しい民間企業が受け持つことになりました。旧国鉄の保線部門がそのままRailtrack社に引き継がれたわけではなく、現業の保線部門は地区ごとや機能ごとに分けられて、売却されて民間企業になり、Railtrack社から業務を請け負う形になりました。

 このRailtrack社は、わずか数年で破綻してしまいます。

 2000年10月、東海岸本線のHatfieldで、死者4人を出す特急脱線事故が発生(ハットフィールド事故)。脱線の原因は、線路の破損でした。

 その後の調査で、その区間の保守点検を請け負う会社では、まともに研修がおこなわれておらず、定められた点検手順や回数がまったく守られていなかったことがわかりました。

 それでもその会社は、事故の少なくとも1年前には、脱線原因となった箇所の不具合を把握していました。ただ、線路交換は別の会社の契約で、その計画はRailtrack社の役目でした。

 Railtrack社は、該当箇所を「1ヶ月以内に交換が必要」と判断。2000年4~5月に線路交換を計画しますが、資材の配送ミスなどで計画通りに実行することができませんでした。

 そしてその後、計画自体を先送りしていました。交換作業には、まとまった時間の線路の閉鎖が必要で、運行会社への補償が発生することから、運行本数の多い夏ダイヤ期間は避けようという意図があったとみられています。すぐに交換できない場合は速度制限を設定するのが通例でしたが、それもしていませんでした。

 しかし、この事故をきっかけに、全国的に大規模な点検と補修作業がおこなわれることになり、それが終わるまで1867箇所にのぼる速度制限が設定されました。点検・補修の費用と運行会社に対する補償がかさんで、Railtrack社は翌2001年には破綻しました。

 後を引き継いだのは国有企業で、「上下」の「下」は10年を経たずに再国有化されたことになります。

運行会社は7年契約という不安定さ

 一方で、利用者にとって普段接する部分、見える部分は、「上」の運行会社(TOC)です。1990年代の民営化では、政府によって、旅客部門は路線や地域ごとに25(現在は17)に分けられました。それぞれに対して政府と「フランチャイズ協定」を結んだ会社が、運営をおこなうのです。

旧国鉄区間の路線図(National Rail Map、2022年6月時点)の一部。旅客鉄道会社ごとに色が分かれている(右が会社一覧。フランチャイズではない会社も含む)。ロンドンのターミナル駅には複数の会社が発着するところも多い

 運行会社がどのように決まるかというと、入札です。国は入札にあたって、そのフランチャイズに対応した「必要最低限度のサービス内容」(Train Service Requirment) を提示します。そこには、担当する運行区間と、区間ごとに必要な本数、主要駅の始発・終発の時刻の目安、運営を担当する駅の営業時間などが事細かに書いてあります。

 たとえば、2011~12年に入札がおこなわれた Great Westernフランチャイズに対して提示された文書はこちらでした。ここから、区間毎の本数を記した表を下に掲げます。

 上に掲げた表の冒頭の行は、ロンドン-カーディフ間の特急で、1日の最低本数は31往復となっています。ちなみに、2019年のGWRの時刻表でも31往復でした。他にも、ペンザンスへの寝台列車も1日1往復とあるのが読み取れます。明らかな赤字と言われながら「Night Riviera」の運行が続いているのはこれに基づいているのでしょう。

 フランチャイズの運営権が欲しい企業は、入札する際に提出する書類の中で、運営に必要な国からの補助金の額を示します。少ない金額を提示した企業が選ばれやすくなるという仕組みです(計画書の出来や過去の実績なども考慮されます。また、補助金がなくても黒字が見込まれる区間であれば逆に政府に支払う額を提示します)。

 こうして、民営化の時点で、25の旅客鉄道会社が誕生しました。旧国鉄幹部が投資家と組んでマネジメント・バイアウトで設立した会社もありましたが、他業種からの参入組も多く、航空会社を持つVirginグループ、大手バス会社(Stagecoach、FirstBus)、海運会社(SeaContainers)などがその親会社に名を連ねました。

 1つのフランチャイズ協定は基本的に7年間です。政府からすると、短くすれば入札の機会も増え、競わせることで補助金を減らせるという目論見だったようです。

 しかし、一方でこの短さこそがこの制度の最も大きな問題だと言われています。7年後に再び選ばれる保証がない運行会社にとって、長期的な投資――つまり設備改良、人材教育、ブランド醸成などに費用を投じるメリットが乏しく、「決められた最低限のサービスをいかに安く済ませるか」が収益のポイントになりがちでした。

 最初の1期で消えた会社の1つが「Thames Trains」。ロンドンとレディングやオックスフォードとの間の近郊列車などを担当していました。2期目(2004年~)の入札を前に、政府は運営効率化という理由でGreat Westernフランチャイズへの将来的な統合を決定。入札は、Great Westernフランチャイズを運営していたFirst社との一騎打ちになり、First社に競り負けました。2004年3月31日を最後に運行を終了し、翌4月1日から新しい「First Great Western Link」という会社が、これまでと同じ車両とダイヤで運行を始めました。実は車両は運行会社の所有ではなく、車両リース会社から借り受ける仕組みで、新会社は同じリース会社と契約して、旧会社の従業員を雇い直せば、従来通りの運行ができるのです。

最初の1期で消えた「Thames Trains」の営業当時のウェブサイト(Wayback Machineから)

 この不安定さのせいか、フランチャイズの入札に応募する国内企業が少しずつ減っていきました。代わって増えていったのが他国の国鉄もしくは旧国鉄系の企業です。JR東日本もその一つで、オランダ鉄道(旧国鉄)系のAbellio社と組んで、West Midlandsフランチャイズの運営権を2017年に獲得しました。イギリス版新幹線の「HS2」(建設中)の運行会社を決める入札では、最終選考に残った3社はいずれも外国企業が絡んでいて、それを報じたBBCの記者は「フランス、オランダ、イタリアの国鉄といったいつもの面々に、最近では中国や日本も加わった。入札に参加できない唯一の国、それはイギリス自身だ」と皮肉りました。

 路線毎に細かくフランチャイズを分けることで、会社間の競争が起こると見込まれていましたが、旧国鉄時代にルートを厳選して投資を集中させた結果、2社以上がきちんと競合できる区間はあまりありませんでした。

 入札制度によって政府が支払う補助金は減るはずと見込まれていましたが、思うようには減りませんでした。さらに、運賃は毎年のように上昇。1995年から2010年までの15年間で1.7倍になりました。2010年代半ばには、ロンドンから80キロ圏の1年間の定期代が5000ポンド(75万円)に達して「5000ポンドのコミュータークラブ」と揶揄されるようになりました。

進まないインフラ改良と続く上下の対立

 Railtrack社の破綻後は、新たに設立された国営企業のNetworkRail社が、インフラを受け持つことになりました。政府主導のもと、電化や高速化などのインフラ改良計画が立てられて、国の予算が充てられました。

 しかしこれが、なかなかスケジュール通りに進みません。大規模なインフラ改良工事では、時にある区間をまるごと閉鎖して工事をする必要があります。しかし、NetworkRail社の事情で列車が運休することになると、運行会社に補償をしなければなりません。インフラ改良がいずれ完成すれば、運行会社こそがその利便を享受できるはずなのですが、期限つきのフランチャイズの中では今運行できないことの不利益を無視できません。

 NetworkRail社は、補償をなるべくしなくて済むよう、線路閉鎖の回数を抑えて、深夜の間合い時間で工事を進めようとして、それが計画の遅延の原因の一つになったと言われています。業界内では「マラソンしながら心臓手術をするようなもの」と形容されていました。

 工事の遅れは、工費を膨らませただけでなく、さらに鉄道運行の混乱の遠因にもなりました。電化工事の完成が予定よりも遅れると、運行会社側からすると、それに合わせて調達していた電車とその運転士が使えず、手放す予定だった古い気動車とそれを動かす運転士を引き続き確保する必要があります。2018年のダイヤ大混乱で非難の的になった運行会社Northanは、混乱の原因はNetworkRail社の電化工事の遅れとそれによる準備期間不足にある、と声高に反論していました。

 今回のGreat British Railways設立の報道で、BBCの記者は「今後何か問題が起きたときに、責任の押し付け合いはもうなくなる。責任が1箇所にまとまるからだ」と分析しました。

おわりに

 まとめはここまでです。

 最後に書いておくと、民営化が何もかも失敗だったわけではないと思います。1990年代以降、鉄道の利用者数は大きく増えました。運行本数が増えるなど、利便性が上がった区間もあるでしょう。また、今回のGBR設立が最良の答えなのかもわかりません。旧国鉄は、赤字とそれによる投資の抑制に悩まされ続けました。国が責任を負う裏には、難しい舵取りが待っていそうです。

 逆説的ですが、フランチャイズという方式だったからこそ、再国有化もやりやすかったかもしれません。第2次大戦後の国有化の時のように、民間会社の株式を全部買い取るといった多額の費用をかけることなく、国は現在ある契約を終わらせればよいのです。コロナ禍で激減した運賃収入を補うために、2020年3月から国が運行会社の費用をすべて補填する緊急措置を始めたことも、再国有化への道筋につながったかもしれません。

旧GCR「代替」バスが2022年4月で廃止の衝撃

「axe」は「斧」という意味の単語ですが、鉄道やバスなどを「廃止する」という意味としても使われます。といっても事業者が公式アナウンスで使う単語というより、利用する側がネガティブな感情をこめて使うことが多いようです。日本語で似たニュアンスの単語を探すと「切り捨てる」「打ち切る」あたりでしょうか。

 1960年代のイギリス国鉄では、ビーチング総裁の主導で、当時の国鉄の4分の1の区間が廃止になり、「ビーチングの斧(Beeching Axe)」と呼ばれました。廃止された区間の中で特に有名なのは、旧GCR(Great Central Railway)のグレートセントラル本線です。

 で、つい最近(2022年3月)、オックスフォード県北部の地域FM局 BanburyFM のニュースコーナーに以下のような見出しの記事が掲載されました。

BanburyFMのサイトから

Stagecoach axe the 200 service

 つまり、Stagecoach社が200系統のバスを廃止するという内容です。 

Geoff Amos AM05 BET
Geoff Amosの黄色いバス。社名のすぐ下に「The Great Central ConneXion」と書いてある(flikrより)

 この200系統は、実は1960年代に廃止された旧GCRの区間を走るバスです。オックスフォード県のBanbury(GCRとGWRの結節点だった)と西ノーサンプトン県のDaventryを結んでいます。

 2011年までは、さらに先のRugbyまで伸びていて、当時の運行会社Geoff Amosはこの路線を「Great Central ConneXion」と銘打っていて、バスの 車体にも大書きされていました。

 Geoff Amosは、GCRの拠点駅のあったWoodford Halseにほど近いEydonという村に車庫がある地元企業でしたが、2011年に破産。

 その後、路線を引き継いだStagecoachは、それをDaventryで分割し、Banbury側が200系統になったというわけです。

「Great Central ConneXion」の売りは「毎時運行」でした。Stagecoachになってからも継続。平日も土曜も1時間に1本という、この地域の都市間路線バスとしては最高頻度を保ち、ここ数年の路線バス網縮退の波を乗り越えてきたのです。しかし、Stagecoachは2022年4月2日を最後に廃止すると発表しました。

 地域に走った衝撃は大きかったようです。Woodford Halseもいまや、この路線が村を走る唯一のバス。廃止後は、鉄道だけでなくバスもない村になってしまいます。同じような村も少なくなく、地域選出の国会議員も巻き込んだ廃止反対運動が起きています。

廃止反対運動を報じるDaventryExpress紙のサイトから

 Stagecoachの発表によると、200系統は自治体の補助のない路線で、ここ数年、支出に対する収入が85%以下だったとのこと。85%は、日本風に営業係数でいえば118円です。営業係数118円のバス路線がいきなり廃止になってしまうというところにイギリスのバス業界の厳しさがにじみます。

Stagecoach公式サイトに掲示された路線廃止のアナウンス

 この記事を書くにあたって、このサイトなどを参考にしました。

追記)廃止反対運動の成果なのか、西ノーサンプトン県は、オックスフォード県と共同でStagecoachに対する補助金を支出し、今年8月27日までは少なくとも路線は継続することになったようです。県会議員は地元紙の取材に対して、「この間に、県内のバス路線網の広範な再検討をおこなう」と語っています。

200系統の当面の存続を伝える地域紙「Banbury Guarian

ロンドンの新駅は「Station station」

本日(9/20)、ロンドン地下鉄の北部線(Northern Line)の延伸で、「Battersea Power Station」駅が誕生します。つまり「Battersea Power Station station」なわけです。

日本だと、「湖遊館新駅駅」とか「国鉄千葉駅前駅」とか、駅がつく駅名はファンの間で人気ですよね。でも、日本語の「駅」と違って、英語の「station」は他の単語と結びついていろいろな意味になる(Power Stationは発電所)ので、そういうこともありそうな気がしますが、それでもイギリスの鉄の皆さんが話題にしているのをみると、イギリス人にとっても意外なのですね。

ロンドンの地元ニュースサイトから
https://www.mylondon.news/news/south-london-news/name-new-battersea-power-station-21615110

イギリス旧国鉄、ついに再国有化?「Great British Railways」発足へ

イギリス政府の交通省が発表した資料の表紙

 90年代の分割民営化から30年弱。サービス改善はなかなか進まず、政府の支出(補助金)は減らず、地域によっては運休や遅れが常態化して問題になっていた(過去記事)イギリスの旧国鉄ですが、2021年5月20日、ついに政府が全く新しい運営方針を打ち出しました。

 新たにできる国有企業1社が、旧国鉄の全路線(少なくともイングランドの)のダイヤ、運賃の策定、切符販売などのサービス全般と、駅や線路などのインフラ管理を一手に引き受けます。その名もなんと「Great British Railways」だそうです。略称はGBR。

 地域や路線などを指定して入札を行って運営会社(TOC)を決め、その会社が、ダイヤを作り、切符を売る現在のフランチャイズ方式は廃止されます。とはいえ、1948年のような完全な国有化ではなく、決められたダイヤ通りに列車を運行したり、車両を整備したりする仕事は、引き続き民間の運行会社がやるそうです。

 とはいえ、乗客から見ると、どの列車に乗っても「Great British Railways」の列車ということになります。ロンドン交通局(TfL)のOvergroundのような方式になるようです。

 以下のリンクが交通省が発表した資料。

https://www.gov.uk/government/publications/great-british-railways-williams-shapps-plan-for-rail

 この記事の冒頭に表紙の写真を載せましたが、なんというか、1980年代の国鉄(BR)時刻表のようですね。ステキ。ただ、保守党政府には、国有化という言葉にはちょっとためらいもあるようで(対立する労働党の看板政策でもあった)、「国有化といっても、すでにNorthernやEast Coastは国有企業が運営してるし、そもそもNetwork Railは2002年から国有だしさ」みたいなことが、さらりと書いてありました。そして、「国有化することが大事なのではなく、複雑な今の仕組みをやめて単純にすることがより大事」だそうです。なるほど。
 ほかにも、30年計画を立てるとか、5つのRegional Divisionができるとか、壮大な事がいろいろ書いてあります。あとでゆっくり読みたいですね。

 このニュースを報じるBBC。20日朝6時のニュースのトップです。

ノーサンプトン県の14歳少年が率いる「鉄道新線運動」

 ノーサンプトン県のWeedon Becという村に住む14歳の少年(Harry Burrさん)が、ノーサンプトン県での鉄道新線建設を訴える運動を起こして、地元紙で話題になっています。その運動の名は「Sustainable Transport Northamptonshire」。そのサイトがかっこよくて、ついつい見入ってしまいました。

14歳の少年によるサイト「Sustainable Transport Northamptonshire」
URLは https://transport-northants.com/

 ノーサンプトン県は、ロンドンから100キロ程度の場所ですが、鉄道の便はあまりよくありません。県内を南北に走る本線が3つありますが、特急(Fast Train)が止まる駅は、一番東側を通るミッドランド本線(Midland Main Line)のKetteringぐらいです。県は東西に広いのですが、東西を結ぶ鉄路はありません(下はNetwork Railの地図で、県の部分をピンク色で塗ってみたものです。実際の形とは異なります)。

Network Railの地図の中で、ノーサンプトン県にあたる場所をグレーで塗ってみた。実際の形とは異なる。一番南西ではチルターン本線がちょっとかする

 真ん中の西海岸本線(West Coast Main Line)は、県都のノーサンプトンから少し西に離れたところを通過します。鉄道ジャーナリスト Chrsitian Wolmarの本によると、その線路が敷設された1830年代にはまだ鉄道に対する迷信があり、ノーサンプトンの町は当時、「煙で羊が汚れる」などと猛反対したそうです(イギリスにもそういう話があるんですね)。開通後にようやく鉄道の有用性に気づいて、誘致運動を起こして、町にも支線が開通。それが今は緩行線として使われていますが、本線(急行線)は今も町を通らぬままで、県内には駅がありません。
 しかし、昔は駅があったのです。
 この14歳の少年が住むWeedon Becという村には今も西海岸本線が通っていますが、ここにはその昔、「Weedon駅」がありました。

Bradshaw 1839 ( TimetableWorld サイトから )

 上の地図は、1839年のブラッドショー時刻表から。LONDON AND BIRMINGHAM RAILWAY の太い実線が現在の西海岸本線。ノーサンプトンを避けるように通り、Weedon Beck(ママ)には「Station」があります。時刻表をみると、当時のWeedonは拠点駅で、上下9往復あったロンドン・バーミンガム間の列車すべてが停車する駅でした。

 しかし、彼が生まれる50年近く前にあたる1958年に駅は廃止。廃止直前の時刻表(下図)では、ローカル列車が朝昼晩の3本止まるだけという典型的な田舎駅でした。

London Midland Region (Jun 1955) Table 50 (Timetable Worldのサイトより)


 彼はまず、ここに駅を再建する運動を始めました。

 実は、何年か前の県の交通計画にも、新駅の候補地としていくつかの候補の1つとして名前があがったことがあり、まったく目がないわけではなさそうです。とはいえ、急行線なので特急(Fast train)以外走っていません。それを停めなくては利用できません。だいぶハードルは高そうです。
 しかし、彼はさらに、その新駅を拠点に、東西に新しい鉄道路線を敷設する「South Northamptonshire Link」という計画案を立てました。

ウェブサイトに挙がっている路線図は3種類あり、これは通常の鉄道を敷いた場合。ほかにLight Railバージョンと、Tramバージョンとがある。

 1950年代に廃止された路線を一部活用する案です。実はWeedonは当時、Leamington Spaへの支線の分岐駅だったのです。
 自分が住む村の歴史を調べたら、実は昔は駅があって、さらに支線の分岐駅だった・・それを知った少年の驚きと、「どうして今はないのだろう?」と思う気持ちは、どちらも想像ができます。
 とはいえ、実現の道は簡単ではなさそうです。バスですら、補助金削減で路線網が「網」ではなく「線」になっています。余談ですが、ノーザンプトン県(County Council)は、財政破綻の結果、2021年から2つの県(正確には県と郡が一体になったUnitary Authority)に分割されるそうです。
 それでも、彼はなかなかの行動力の持ち主で、単にサイトを構想を載せるだけでなく、英国国会サイトのオンライン署名を実施したり、運輸省など関係各庁にメールを送ったり、と実際の関係各所に働きかける活動もおこなっている様子です。(私には何もできませんが)応援したい気持ちになりました。

コロナ対策で各社とも減量ダイヤ。それでも明日はダイヤ改正日

 イギリスの各鉄道は、新型コロナウイルスによるロックダウン政策に対応した減量ダイヤ中です。本来であれば、毎年恒例の春のダイヤ改正の時期ですよね。一応、各社とも明日(5/18)から新しい時刻表になるようですが、いずれにしても特別ダイヤなのは変わりません。
 BBCの少し前の記事によると、5/18からは「現状の5割ダイヤが、7割ダイヤになる」とのこと。

 Chiltern Railwaysでは、明日からOxford系統が、これまでの1tph(train per hour)から2tphになり、通常ダイヤと同じに。Banbury-Barmingham系統も、Banbury発着のSemi-fastを復活させて、Banburyまでは2tphに(こちらは通常ダイヤでは3tph)。少し復活といった具合。しかし、サイトには「Essential travel only」という標語が特大のフォントで載っていて、非常時の雰囲気をかもしだしています。

Chiltern Railwaysの公式サイト。左の社名ロゴと、この標語のフォントのサイズを比較してください


 GWRでは、時刻表そのものを掲示していません。検索して結果を見てね、という状況です。
 たとえば、OxfordとBanburyの間の各駅停車は運行休止しているようで、中間駅のTackleyとHeyfordは発車案内がいつ見ても空っぽです。

GWRの2019年12月ダイヤ改正は40年ぶりの大規模

 GWR(Great Western Railway=大西部鉄道)の2019年12月のダイヤ改正は、「1976年以来」の大規模な改正だそうです。方面別に改正点をまとめたプレスリリースが9月に出て、びっくりしたのですが、記事化が遅くなってしまいました。

 いろいろと驚くポイントはありますが、個人的にはGWR営業エリアのもっとも北東にあるBanburyに、ロンドンとの特急が朝晩にできることが興味深いです。おそらくClass 800系列(※)と思われる新型IETによる運行。最速列車は66分で、途中Oxfordにしかとまりません(Readingすらも通過)。
 Banburyは、Chiltern Railways(チルターン鉄道)の拠点駅のひとつ。ロンドンに行くには、Chilternルートと、GWR(Oxford・Readingまわり)の2つのルートがあります。
 後者のOxfordまわりのルートは、19世紀半ばにGWR(旧)が建設。しかし、Chiternのルートも元はといえば、20世紀のはじめにGWR(旧)が、GCRと共同で建設した短絡ルートなのです。ロンドンからバーミンガムを経由してリバプール対岸のBirkenheadまでの特急が1960年代半ばまで走っていました。しかし、「ビーチングの斧」政策によって主要幹線の座から引きずり下ろされ、70年代以降はほとんどの区間が単線化されて、ローカル列車だけが走る区間になっていました。
 90年代の民営化では、両ルートは別々の運行会社が担当することになり、競争状態になりました。当初は、どちらのルートもclass 165/166がおよそ、ロンドンまで1時間半ぐらいで走ってました。しかし、Chilternは積極的な投資を開始。再度の複線化、線形改良などの設備投資を重ねて、Banburyとロンドン間は最短50分までにスピード化。
 もともと距離が長く不利なGWRは、ロンドン直通列車をあきらめて、Oxfordとのローカル輸送だけを担っていました。
 それがここに来て、GWR自慢の最新鋭のClass800系列(日立製)をひっさげて反攻に出るというのですから感慨深いです。とはいえ、1日2往復ですから大勢は変わらないでしょうが。

※当初「Class801」と書いていましたが、801は電車ですので、Banburyまでは来られませんね。訂正します。下のツイートによると、12/17の朝上りはClass 802だったそうです。

GCRのBrackley Centralの旧駅舎がカフェに

 1966年に悪名高い「ビーチングの斧」政策で廃線になった旧GCRのBrackley Central駅。
 駅舎はその後、長いことタイヤメーカーの事務所として使われていましたが、2018年に退去。競売にかけられることになって、開発業者が取り壊して住宅地を造成するという噂がたち、住民が保存を求める活動を起こしていると、地元紙で報じられていました。

Fears old Brackley station building will be replaced with houses / Banbury Guardian

 どうなったのかと気にしていたのですが、なんと今月、建物をそのまま使って、「Brackley Central Cafe」というカフェがオープンしたそうです。

カフェのウェブサイト ( http://brackleycentral.co.uk/ )


 名前が示すとおり、駅がモチーフになっています。カフェのロゴもなんとなく、往年の駅名標を彷彿とさせる感じ。店内には、廃線に先立つ3年前、Brackleyの信号所(Signal Box)が廃止になった日に信号手が書いた詩「The Signalman’s lament」(このサイトに全文が掲載されています)が額に入れられて、飾られています。
 オープンを報じる地元紙の記事によると、店長はオープンの日に立ち寄った客の1人から声をかけられ、それがなんとその詩を書いた信号手の息子だったんだとか。

 実はこのブログ管理人の個人的な話ですが、数年前にイギリスの鉄道に興味を持ち始めたころ、GCR(Great Central Railway) の存在を知り、YouTubeで最晩年の動画を見つけました。田舎を走る蒸気機関車が到着したのは、「Central」という名前がつきながら、島式1面2線のノンビリとしたBrackley Central駅。

Great Central Railway 1965 & 1966 (Youtube)より、Brackley Central駅に到着するシーン

 で、Google Mapで何気なくBrackleyのあたりを見てみたら、衛星写真にはっきりとした明らかな廃線跡を発見。さらに、Top Station Roadという通りの名前にピンと来て、ストリートビューを見てみたら、そこにあったのは、Brackley Central駅の旧駅舎でした。

Google Mapのストリートビューででてきた、2008年のBrackley Central旧駅舎

 日本にいながらにしてこんなことができるなんて、と本当に興奮しました。イギリスの鉄道に熱中するきっかけをつくった駅といっても過言ではありません。
 地元の人が願っていたとおり、駅の記憶を残したかたちで建物が新たに使われるようになったことはとても嬉しいです。日本から何もできませんが、心から応援しています。

GWRの牙城にオープンアクセスの新会社、その名もGRAND UNION

 英メディア各社によると、ウェールズ南部の大都市CardiffとLondon(Paddington)を結ぶ新しい鉄道会社が設立され、審査待ちの状態です。

新会社 Grand Union Trainsのウェブサイト(2019.6.16現在)

 GWRが独占する牙城とも言える区間です。BBCの記事(これがまた詳しい)によると、GWRとは異なり、途中のSwindonやReadingなどを通過することで、高速化を図るとのこと。また、Independent(こちらも詳しい)によると、東海岸本線で「AZUMA」の導入によって捻出される旧国鉄型のIntercity225を利用するとのこと。あれ?ちょっと前に、Intercity125のさよなら運転をやったばかりですよね。と、まあ衝撃的なプランなのですが、運輸省の認可を得られるかどうかはまだこれからとのこと。

 イギリスの鉄道は、1990年代の国鉄の民営化時に上下分離され、線路などのインフラはNetwork Rail社が所有し、列車の運行や駅の運営などサービス面は、運行会社が担当します。運行会社は、特定のエリア全体をカバーし、国がサービス水準を定め、入札方式で決められる「フランチャイズ」方式が大半ですが、それとは別に運行区間やサービスを自ら設定できるオープンアクセスという形式もあります。ただし既存フランチャイズ会社の利益を守るために、旅客の3割は新たに掘り起こされた需要によるものでないといけないというルールがあります。
 ちなみに、日本語ウェブではこちらのページがとても詳しいです(感謝)。

イギリス鉄道のフランチャイズ制度 – 世界の鉄道(裏辺研究所)
http://www.uraken.net/world/wrail/eng/topic1/topic1.html

 新会社は「GRAND UNION TRAINS」という名前。なんだか北米の香りがしませんか?ロンドンと北東部を結ぶオープンアクセスの鉄道会社「GRAND CENTRAL」(Great Centralではありません。念のため)もね。と思ったら、今回の会社の社長Ian Yeowartは、Grand Centralの創業者でもあるんだとか。会社のサイトにあるマーケティングディレクターのDavid Prescottって、元副首相のJohn Prescottの息子と同姓同名なんだけど別人ですよね。

同好会による鉄道模型の展示が暴徒に破壊される。クラウドファンディングで多くの支援

 リンカーン県(Lincolnshire)のStamfordの学校の体育館で、近隣の鉄道模型同好会が展示会の準備をしたところ、展示会当日の未明に「暴徒」が侵入して、何年もかけて作り上げた車両やレイアウトなどを破壊し尽くすという痛ましい事件がありました。防犯アラームでかけつけた警官に犯人(若者4人)は逮捕されたそうです。

同好会が立ち上げたクラウドファンディングページ。すでに88000ポンドに

 BBCを始め、多くのメディアで報じられています。同好会が「修理」のためにクラウドファンディングで寄付を募ったところ、もともと500ポンドの目標に対して、それをはるかに上回る額が集まっています。5/22 19:40の時点で88000ポンド(1300万円ぐらい)に達しています。わたしも微々たる額ですが寄付しました。

Market Deeping Model Railway Club
https://www.mdmrc.org/

クラウドファンディングのサイト
https://www.justgiving.com/crowdfunding/market-deeping-mrc

BBCによる記事
https://www.bbc.com/news/uk-england-lincolnshire-48326572

地元紙「Rutland & Stamford Mercury」の記事
https://www.stamfordmercury.co.uk/news/four-arrested-at-welland-academy-after-vandalism-of-model-railway-exhibition-9070661/