さよならインターシティ125(といってもGWRからの話)

 LNERで、日立製の新型特急「AZUMA」(800系)の運転が始まり、それが日本でもニュースになりました。
新車両の名は「AZUMA」 日立が英国高速鉄道に納入」朝日新聞デジタル

 一方、同じ800系をいち早く導入したGWRでは、旧・国鉄型特急車両「HST」またの名を「Intercity125」が淘汰され、2019/5/18に最終運転となりました。
“Bumper turnout expected for last High Speed Train Service from Paddington” GWRのプレスリリース

 イギリス国鉄は、長距離列車を「インターシティ」と名付けて、高速化&等時隔化を進めました。それが日本の国鉄の「L特急」の元となったのはご存知の通りです。そのインターシティの標準車両ともいえるのが、253系、254系の「HST」です。日本でいうと485系みたいなもんですかね。 ちなみに「125」とは時速125マイル(=200キロ) 。

 Geoff Marshallが最終運転日のPaddington駅の様子を動画にまとめています。例によって葬式テツの皆さんで駅はいっぱいですが、記者や関係者、趣味者もみんな和気藹々とした雰囲気なのが、なんだか良い感じです。

 面白いのが、画面に登場する皆さんに「HST」の思い出を語らせようとするのですが、GWRの副社長は「(登場時は)ちっとも好きじゃなかった。大人になってからちょっとだけ好きになった」と言っているところ。なんとなく、同年代の鉄道ファンの意見を代弁しているように思えます。

濃いテツ記事・BBC「Reality Check」

<イギリスのマスコミの「濃いテツ記事」>

 以前、「イギリスのメディアにいる25~50歳ぐらいの男は全員、鉄道に詳しいのって一体なんなの?」という話を紹介しました。そのときも書きましたが、イギリスのメディアの記事には時折、とてつもなく鉄分が濃いのがあります。今回はそれを紹介します。

 トランプ大統領の誕生に前後して、政治家の発言が事実に基づいているかを、メディアが検証して記事化する「ファクトチェック」という手法が話題になりました。

 イギリスBBCの「Reality Check」シリーズもその1つ。そのシリーズで取り上げられたのは、イギリス中部の大都市マンチェスターの市長(Andy Burnham)のこんな発言です。

Reality Check: Does the North get a raw deal on rail?
https://www.bbc.com/news/uk-41051440

「ChesterからManchesterへ(の列車)は、1962年よりも今(2017年)のほうが時間がかかっている」
 It takes longer today to get from Chester to Manchester than it did in 1962.

(BBCのサイトから)

 BBCは、これを過去の時刻表をもとに調べます。そして、検証結果は

正しい。でも途中の停車駅が増えたせい。他の大多数のルートは所要時間の改善もされている」。
 True, but the fastest service on that route now stops in more places. The vast majority of other routes have seen improvements in journey times

 チェスターへの所要時間は今は60分ですが、1962年の最速列車は56分でした。しかし、そのほかの主要都市は逆に1~20分、所要時間が減っているとのこと。所要時間以外にもいろいろな要素がある、と解説もしてくれています。

 この発言は、ロンドンに比べて、地方都市では鉄道の近代化(への投資)が遅れているという問題を投げかけるためのものでした。しかし、地元紙(こことか)ならばまだしも、BBCほどのメディアが、この発言をわざわざここまで調べるかなあ。当局に確認して間違いでなければ、それで終了な気がします。

 きちんと調べて、しかも調べたことを発表したい・・。これは趣味者のそれですよ。趣味としてならば、調べたいという気持ちはわかる。とってもわかります。
 実は、1962年の時刻表は、「Timetable World」というサイトでネットで見ることができます(素晴らしい!)。となると、わたしもやっぱり調べたい。自分で調べたい。

PASSENGER SERVICES TIMETABLE [London Midland Region] 1962 Sep
https://timetableworld.com/book_viewer.php?id=2&section_id=-1

このなかの「Table 84」にありました。実際に56分の列車はこれ。


 同じ区間の最新の時刻表はこちら
https://tfwrail.wales/sites/tfwrail.wales/files/2018-11/PTT%204%202.pdf

 2017年当時より1分短縮して最短59分になっています。この区間を走る列車は停車駅が統一されて、7駅に増えています。

 マンチェスターは、イギリスで2~3番目の都市で、日本で言えば大阪のような立ち位置。1962年よりも現在のほうが所要時間が延びているというのは、あり得るでしょうか

 1962年の日本の時刻表を調べてみました。関西本線の奈良-天王寺間は、その当時、準急「かすが」(気動車!)で32分(停車駅は途中、王寺のみ)です。現在はこの区間は、大和路快速で33分(途中停車駅は5つ)。
 ああ、まさに似たような事例ですね。こういうことなんですかねー?違うかな。

 ちなみに、この「Reality Check」シリーズの他の記事では、鉄道にとっての「定時」という概念が国によってまったく異なることを調べた「電車が時間通りっていつのこと?」という名作もあります。これもいずれ紹介しましょう。

2019春のダイヤ改正は5/19から

各鉄道会社ごとの改正内容。

イギリスの鉄道、特に旧国鉄は毎年5月に、一斉ダイヤ改正をします。昨年は「数十年に一度の規模」というもので、大混乱を巻き起こしましたが、今年は比較的小規模なようです。

Train timetable changes May 2019: how my rail route will be affected

Details of British May timetable change released

チルターン鉄道は、シェークスピア生誕地のStratford-upon-Avonと、ロンドンを結ぶ直通列車を大幅に増やすということです。これ何年か前のダイヤ改正で、直通列車を削減して、乗り換え必須にする代わりに頻度(Frequency)を改善すると謳っていたと思うのですが、やはり観光地としては直通でないと案内に困りますよね。チルターン鉄道は、民営化で誕生した会社の中では、限りなくわずかな成功例といえますが、Stratford-upon-Avonについては、渋いダイヤが続いていました。Bicester Villageは、いまやチルターン鉄道の観光スポットの筆頭で、地元の反対を押し切って駅名まで変えましたが、それと比べると知名度のわりに集客力がないんでしょうか。

https://www.chilternrailways.co.uk/news/chiltern-railways-announces-its-may-timetable-and-boosts-links-stratford-upon-avon

New North Main Lineの残存区間が廃止に。葬式テツの様子がBBCで取り上げられる

チルターン鉄道(Chiltern Railway)のターミナルは、マリルボーン(London Marylebone)ですが、今冬の改正までは、1日1本だけパディントン(Paddington)発着の列車がありました。
その最終運転日となった12月7日には、多くの鉄道ファン(日本で言う葬式テツ)が集まって、普段はガラガラの列車が大混雑となったというニュースをBBCが流しました。

Geoff Marshallが専門家ではなく、単に趣味者の一人として登場するのがご愛敬。

さて、今回廃止になった区間はNew North Main Lineという結構由緒がある路線なのです。

いま、チルターン本線(Chiltern Mainline)と呼ばれる路線は、その昔、大中部鉄道(GCR)と大西部鉄道(GWR)が共同で建設した区間が元になっていて、GWRのターミナルであるPaddingtonからも線路がつながっていたのですね。それがNew North Mainlineと呼ばれる区間。

GWRは、PaddingtonからBiscester、Banbury、Birminghamなどを経て、Birkenhead(Liverpool)まで特急列車を走らせていました。Paddington発毎時10分が、この路線の特急列車の時刻で、それが国有化後も続きました。「きかんしゃトーマス」でも取り上げられた「スリップコーチ」が最後まで運転されていたのがこの路線です。それが、1960年代の「ビーチングの斧」政策で、残す必要のない路線と認定されて以来、急速に廃退。Birmingham以北が廃線になり、ほぼ近郊区間だけの路線に。Paddington発の列車は1日1本だけになっていて、それが今日まで続いていました。

1964年の時刻表。MaryleboneとPaddingtonの両方から列車が出てくることがわかります。

ちなみに今回廃止になったのは、HS2の建設にともない用地を明け渡す必要があり、線路を撤去するためだとか。

そして、今冬の改正で新たに登場した1日1本の列車については、われらがGeoff Marshallがさっそくレポートしています。

How is it that every man in the British media between 25-50 is an expert on rail policy?

【折々の英文】
このサイトでも報告していますが、イギリスのメディアでは今、ダイヤ改正による「鉄道の混乱(Rail Chaos)」がガンガン報じられています。

そんなさなかに、バズフィード(UK)のMark Di Stefano記者が、こうつぶやきました。

How is it that every man in the British media between 25-50 is an expert on rail policy?
イギリスのメディアにいる25~50歳ぐらいの男は全員、鉄道に詳しいのって一体なんなの

それに対して、Jim Waterson記者(元ハフポスト、現在はガーディアン)はこう答えています。

構造的な理由:電車観察(Trainspotting)は、田舎町のノンポリ親父の趣味の王道で、子どもに受け継がれる
技術的な理由:インターネット初期で、ニッチな話題のフォーラムで盛り上がった世代だ。その下の世代は単にエロいスナップチャットを見るだけ
さらに言うと:Mansplaing(男が偉そうに上から目線で女に説明する、という意味)

毒っ気全開なんで、批評は控えますが、なんとなくちょっと納得。でも、日本ではだいぶ「鉄道趣味」に対するネガティブイメージは減ってきましたが、イギリスではまだまだ健在のようですね。そこは残念。

ま、そこはオタク同士の連帯を是とする当サイトとしては、異邦の同胞をたたえていきたいと思います。BBCの鉄道記事は、本当にすごい濃度なんですよ。記事の本数はそんなに多くないけど、1本1本の濃さがすごいんです。いずれ、そんな記事の数々を紹介したいと思います。

ノーザン鉄道大混乱続く。本数6%削減の暫定ダイヤ導入へ

「最大級ダイヤ改正」の混乱はまだ続いています。

ガーディアン紙によると、ノーザン(北部)鉄道は、ダイヤ改正以後、定時率(Punctuality Rate)が低下し、実に17%の列車が、運休か30分以上の遅延しているとのこと。

そこで、ノーザンの公式発表によると、6月4日から7月31日まで、大胆にも165本/日の列車を運休(全列車の6%)させるそうです。理由は定時率の改善のため。

もっとも影響が大きいのは、湖水地方のウィンダミア(Windermere)とプレストン(Prestonを結ぶLake Line。全列車が運休となり、代替バスを走らせるそうです。都市近郊のマンチェスターとKirkbyを結ぶ路線でも、日中の毎時1本の区間が、毎時2~3時間に1本にまで減ります。深刻ですね。

https://www.northernrailway.co.uk/temporary-timetables

From Monday 4 June 6% of daily train services, that’s 165 out of our normal 2,800 daily services, will be temporarily removed, until the end of July.

This interim timetable will enable Northern to start to stabilise service levels over the next few weeks and, importantly, start to reduce the number of last-minute train cancellations.

In the short-term we will be running fewer services, but still more than we did before the May timetable change. We will then get back to a full timetable service by the end of July.

この公式発表には、この問題の起きた原因(What caused the problem?)という説明があります。

Northern’s new timetable was designed to provide extra services, making use of our growing train fleet and infrastructure upgrades including the Ordsall Chord, at Liverpool Lime St and between Manchester and Blackpool. However, the timetable had to be planned and delivered in four months compared to the normal 9-12 months.

つまり通常は、新しいダイヤ作成から改正までほぼ1年かけるのに、今回は大規模な改正だったにもかかわらず、4ヶ月しかなかったと。

This was because in January 2018 it was announced that there would be a further delay in delivery of the electrification of the Manchester-Preston via Bolton line, bringing the delay to two years. As a result of this announcement we had to totally rewrite our timetable plan and then plan and deliver significant levels of complex driver training on new routes and to operate different trains. This has caused us to have a reduction in availability of drivers to run our scheduled train services whilst they complete their training, and this has resulted in the significant number of last minute cancellations.

その理由は、電化工事完成が2年も遅れ、そのために運転士の養成計画が狂ってしまった。ダイヤ改正も計画変更を余儀なくされた・・。つまり、電化工事は、インフラ管理会社のNetwork Railによるもので、列車運行会社である自分たちのせいではない、と言いたいのですね。イギリスの国鉄民営化の失敗は、上下分離(インフラと運行会社を分けたこと)と指摘されていますが、まさにそれがよくわかるコメントです。ちなみに、電化工事完成がなぜ遅れたかというと、運行会社が運休に協力せず、列車が走らない深夜だけで工事を進めたからだと言われています。数年で契約が切れる運行会社には、工事に協力するインセンティブがないんですよね。

「最大級のダイヤ改正」平日初日は混乱

ここ数十年で最大級のダイヤ改正後、はじめての平日は、相当な大混乱だったようです。特に、テムズリンクとノーザン(北部鉄道)では、大規模な運休が起きたとか。ガーディアン紙がテキストライブ中継をしているほど。

テムズリンクの公式ツイッターでは、「we have a lot of staff and stock in the wrong places」とのこと。つまり、人と車両の配置転換がうまくできていなかったということなんだけど、これをしれっとつぶやけるのがすごいですな。

「all the STATIONS」のドキュメンタリー公開へ

昨年、クラウドファンディングで資金を集めて、イギリスの鉄道全駅制覇の旅を果たしたYouTuberのジェフとヴィッキー。
その旅のプロジェクト「all the STATIONS」の新作ティザーが公開されています。旅をまとめたドキュメンタリーが5/19に公開されるようです。

このプロジェクト以後も、ジェフは精力的に鉄オタ向けコンテンツを、プロのクオリティで作り続けています。素人が自らのTrainspottingをそのままダダ流す投稿動画ももちろんおいしいけれど、やはり映像のプロが作る動画はすごいですよねえ。

An enthusiast always likes to see unusual destination display.

【折々の英文】
このコーナーでは、イギリスのオタクの皆さんの個人サイトから、グッとくる一文を見つけたら、それをご紹介します。

An enthusiast always likes to see unusual destination display.

オックスフォードのバスマニアのサイトから。訳すと、「マニアは、普段使わない行き先表示を見るのが好きだ」という感じでしょうか。そうか、イギリスの連中も同じなのかと感慨にふけってしまいますね。ちなみに、このあと「 Here a Gold bus is “on the 16”. 」(こちら、Goldバス=訳注:二階建ての豪華バス=が、16系統だって)と続きます。たぶん、16系統は1日1往復ぐらいで、普段は小さなバスで運行されてるんでしょうね。

鉄道やバスという趣味は、はっきりしたルールとか教義とかもなく、もちろん社会的な意義や使命なども何もありません。ただ単に好きなものが好き、好きじゃないものは好きじゃないというだけの世界。なのに、どうして、時差が9時間もあるような地球の向こう側の皆さん方と同じ気持ちになりえるのか。不思議ですね。

チルターン・レイルウェイズ (Chiltern Railways)

【鉄道会社紹介】ロンドン・マリルボーン(Marylebone)をターミナルに、バーミンガム、オックスフォード、アイルスベリなどに列車を走らせる運行会社。

マリルボーンはロンドンで唯一の非電化ターミナルで、受け持つ路線もすべて非電化。1980年代には廃止が取り沙汰されたこともある地味な路線だったが、地道な設備投資を続けて、速度向上と本数増加を少しずつ成し遂げ、いまでは「本線」(Mainline)を名乗るまでになっている。

1996年の国鉄民営化時に、旧国鉄幹部によるマネジメント・バイ・アウトで設立された。イギリスの国鉄民営化は散々な結果をもたらし、再国有化も議論されているが、その中では「例外的な」成功例とされる。